あたし、ナカタニ アヤ。
しがない駆け出しエンジニアだけど、心には常に「最強のギャル」を飼ってる。
これ、あたしの生存戦略であり、この世の真理(マジレス)だから。
で、そんなあたしが今どこにいるかっていうと。
なんかすごいレトロ……っていうか、ぶっちゃけ「味がありすぎ」なアパートの前に立ってる。
ここが噂の「遺跡荘」らしい。
安達さん――あたしが勝手に「師匠」って呼んでる人――が住んでる場所。
ログでしか見たことなかったけど、実物はマジで「遺跡」って感じ。
風が吹くと、どこからかカランコロンって音がしそう。エモい。てか、エモすぎてちょっと泣きそう。
「……よし、行くべ」
あたしは心の中のギャルに「気合い入れてこ!」ってハイタッチして、錆びついた階段を上った。
***
二階の踊り場に、誰かいた。
白いワンピース着た、すっごい綺麗な人。
アリカワさんだ。ログで読んだことある。「蝶」の人だ。
彼女は手すりにもたれて、ぼーっと空を見てた。
その横顔がさ、なんていうか、すごい「薄い」の。
存在感がないとかじゃなくて、向こう側の景色が透けて見えちゃいそうな透明感。
触ったらパリンって割れちゃいそうな、ガラス細工みたいな感じ。
(うわ、マジか……これがあたしらの言う「儚い」の究極系?)
あたしなら、こんな時どうする?
「うぇーい! お姉さん何見てんのー? 蝶? 蝶とか超綺麗じゃん! 映えじゃん!」
って、明るく話しかけて、その「割れそうな空気」をぶち壊しに行くかな。
だって、見てて怖いもん。消えちゃいそうで。
でも、今のあたしは動けなかった。
その「儚さ」が、あまりにも完成されてて、綺麗だったから。
「壊れそう」なんじゃなくて、「壊れそうなギリギリのところでバランス取ってる」凄みみたいなのを感じちゃって。
そこに、下から誰かが上がってきた。
猫背で、ちょっと疲れた顔したおじさん。
安達さんだ。
「アリカワさん。あっこでコロッケ買ってきたんやけどいる?んまいよ」
安達さんの声は、あたしが想像してたよりずっと優しかった。
コロッケ。
そのチョイス、渋すぎん? ってツッコミ入れたくなるけど、その「生活感」が、アリカワさんをこっち側の世界に繋ぎ止めるアンカーみたいに見えた。
アリカワさんが振り返って、ふわりと笑う。
「ありがとうございます。でも、今日は遠慮させていただきます」
その笑顔を見て、あたしは思った。
(あー、この人たち、全員「戦ってる」んだな)
剣とか魔法とかじゃない。
「日常」っていう、地味で平坦で、でも油断するとすぐに足元救われる戦場で。
アリカワさんは「透明な膜」を張って自分を守ってるし、安達さんは「コロッケ」みたいな温かいものを配って回って、みんなの膜が破れないようにしてる。
あたしの「心の中のギャル」も同じだ。
「なんとかなるっしょ!」って強がることで、あたしは自分を守ってる。
みんな、それぞれの装備で、それぞれの生存戦略で、今日を生き延びてる。
***
二人がそれぞれの部屋に戻ったあと、あたしはこっそり踊り場に出てみた。
夕暮れの空には、もう蝶はいなかったけど、一番星が光ってた。
「……やっぱ、安達さんはすげーわ」
あたしは独り言ちる。
あたしは自分のことで精一杯だけど、あの人は「遺跡」になって、みんなの居場所になろうとしてる。
自分もボロボロのくせにさ。
「ま、あたしはあたしのやり方でいくけどね!」
あたしはスマホを取り出して、その一番星をパシャリと撮った。
加工アプリでキラキラのエフェクトかけて、スタンプ押して。
『今日も一日お疲れサマンサ! 星綺麗すぎワロタ🌟 明日も生き延びるぞー!🔥』
ってキャプションつけて、Xに投稿した。
これが、あたしの戦い方。
「遺跡」にはなれないけど、あたしは「ネオン」になりたい。
暗い夜道でも、「あ、あそこでなんか光ってるw ウケるw」って笑ってもらえるような、チープで明るいネオンサインに。
「よし、帰ってコンビニスイーツ食べるべ!」
あたしはカツカツとヒールを鳴らして、階段を降りた。
その音が、静かなアパートにちょっとだけ響いて、すぐに夜に溶けていった。
(また来るね、師匠。今度はコロッケ奢ってよ)
心の中でそう呟いて、あたしは「遺跡荘」を後にした。
心の中のギャルが、「今日のうちら、マジでイケてた!」って親指立てて笑ってた。
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